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作り手をたずねて

木のいのちを感じる家具

生きた木がある暮らしの中で、自然のサイクルに沿って家具を作る

私たちの使っている家具は、どこかで何十年、何百年と生きてきた木。
それを育んだ風土と、作り上げた人の思いを知ることができれば、
私たちは家具を通して、自然に触れる喜びを感じることができる。

「自分も自然の中の一部であり、自然のサイクルの中の営みの一つとして、
木と向き合い、響き合うものと作り上げたい」

奈良県で木工の家具を製作する渡邉崇さんの作品に初めて出会ったとき、光と影を感じる木目の美しさや、触れると木をとろとろに感じる座り心地の良さに、これが木の柔らかさかと驚きました。

触れると木をとろとろに感じる座り心地の良さ

奈良県吉野郡川上村で家具や器を製作する渡邉さんは、100年200年と何世代にわたって大切に育てられてきた吉野杉や吉野ヒノキ、またその土地の木との出会いを大切にし、木の性質を生かした一点ものの作品を作り出します。

私たちの身の回りの家具は、元は生きていた木でできている。
それは、自然の恵みや木のいのちを感じるものたち。
渡邉さんの作品は、木が語りかけてくるような存在感を放ちます。

生活の中にそういったものを取り入れ、大切に使い続けることで、私たちは暮らしの中で再び自然とつながることができるような気がします。

今回は、奈良県の川上村の渡邉さんの工房「moon rounds」にお邪魔して、創作に取り組む思いを聞きました。

渡邉崇 moon rounds

渡邉崇 moon rounds

大阪出身。イギリスに遊学した後、大阪、群馬、岐阜(飛騨高山)にて木工を学ぶ。その後、2017年に地域おこし協力隊で奈良県吉野郡川上村に移住。2018年に工房「moon rounds」を開設。

吉野林業、木と共に生きてきた人々の街

奈良県の東部と南部は「奥大和」と呼ばれる地域。
その中にある、奈良県南部の吉野地域は、世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部でもあり、古くから、人々が信仰と祈りをこめて通う聖地でした。

「奥大和」と呼ばれる地域

(写真:奈良県吉野郡吉野町提供)

吉野の造林の歴史は古く、室町時代 500年ほど前に川上村で植林を始めたという記録が残っています。渡邉さんが工房を構える川上村は世界最古の造林地でもあり、日本三大美林のひとつに数えられる吉野杉や吉野ヒノキの良質な木材を作り続けてきました。(世界最古の植林を始めたドイツと同時期と言われる)

世界最古の造林地

特徴は、木がまっすぐに育ち、節がなく、年輪が細かいところ。
それは、100年、200年というスパンをかけて、人々が大切に木を受け継ぎ、手をかけて育ててきたことによって生まれる美しさ。
豊かな森林資源と水源、そしてそこに人々の手が加わることで、美しい山が代々守られてきました。

豊かな森林資源と水源

奈良の市内から、渡邉さんの工房がある川上村へは車で約2時間。
電車では最寄りの近鉄吉野線、大和上市駅から車でさらに30分ほど。山の奥深くへと入ります。

大和上市駅の光景。ここは吉野町と言って、吉野川下流の地域で、製材所が立ち並ぶ街。

製材所が立ち並ぶ街

昔は吉野川の上流域、川上村や東吉野村で伐採した木を筏にして運び、ここ吉野町で製材し、全国へ運び出していたと言います。

街を歩くと、ほんのりと香る上品な木の香り、製材所の音、冬には巨大な丸太が並ぶ風景、そしてこの街で働く人たちの姿。木と共に生きてきた人々の生業が今もこの地に続いています。

生きた木がある場所で、創作すること

到着した渡邉さんの工房「moon rounds」。工房には様々な木の表情が感じられる渡邉さんの作品が並んでいました。

様々な木の表情が感じられる渡邉さんの作品

様々な木の表情が感じられる渡邉さんの作品

様々な木の表情が感じられる渡邉さんの作品

―渡邉さんはこの川上村で、どのような思いで創作に取り組んでいるのでしょうか。

「ここ川上村には、吉野杉やヒノキと言った人工林もありますが、様々な広葉樹もあります。
神社で立ち枯れた木があったり、大きくなり過ぎてしまった山奥の木を、近くの林業家が伐採して僕が製作し、この村のカフェでテーブルに使用したりもします。

近くの林業家が伐採して製作

ここで製作していると、川上村で生きている木を見ながら、自分が作ったものを使っている人たちの光景にも触れられます。
自分が扱う木の前後のところに触れられて、実感することができる。
それがまた創作意欲に結びつく気がします。

自分が扱う木の前後のところに触れられて、実感することができる

まだ自分が製作を始めたばかりの頃は、都市で商業施設の什器を作る仕事をしていました。
店舗は入れ替わりが激しいので、必要なくなるとすぐに廃棄されてしまう。また、どこの木を使っているのかも分からない、ということに違和感を感じるようになりました。
それが悪いというわけではなく、それも都市の中では必要なことですが、自分がやりたいこととは違うと感じるようになりました。

材料として木を扱うと、「生きているもの」とは違うものになってしまう。

川上村に辿り着きました

身近にあるところのもので、もっと生活を豊かにすることができるのではないか考え始め、木工を学びながら様々な地を転々とするうちに、ここ川上村に辿り着きました。
ここにいると、生きている木からものを作り出すことを実感できる。

川上村で伐られた木を使って家具を作り、木を伐ってくれた林業家さんのところに出来上がったものを見せに行ったりもします。
木を伐る人たちも危険な思いをして伐っている。吉野杉やヒノキといった人工林は何百年と大切に育てられた木で、みんなそれを受け継いできたことを感じながら仕事をしている。
そういった思いも全てここではつながっている。

木を伐ってくれた林業家さん

<中平林業の職人たち(川上村)>

ここの風土と木と共にある暮らしの中では、生きている木に対するありがたさを感じます。

川上村の村、空気、水、全ては木を育てる風土であり、自分もその環境の中にいることを感じながら創作していきたいと思っています。」

空気、水、全ては木を育てる風土

木の個性に合わせたものをつくる

渡邉さんが扱う木は、吉野杉やヒノキという針葉樹だけでなく、川上村で伐採された様々な樹種があります。

川上村で伐採された様々な樹種

木の特徴を生かして作られた作品は、どれも表情がさまざま。
自然の風合いを生かした木は光をまとうと陰影が美しく映し出されます。

陰影が美しく映し出されます

陰影が美しく映し出されます

―こういった様々な木を扱うところの面白さはどのようなところにあるのでしょうか?

「僕は自分が何を作りたいか、というところではなく、その木と出会った時に、特徴を生かして何が作れるだろうかというところから考えます。
何を作るかという前に、木の存在が大きい。

削ってみると、生きていた木の時間がある。

生きていた木の時間がある

それは、ものを扱う感覚とはまた違った生々しさというか・・・
それを自分の手を介してどのようにできるのか、自問をしながらと言うか、
木と対話しながらカタチにしていく作業です。

例えば、木が虫に食われていたり、傷みがあっても、それもまた自然の姿であり、
それ自体を生かして手を掛けていく。

これまで生きてきた時間から、自身の関わりを経て、変容し、そしてこれからの時間もまた豊かに生き続けられたら…。そんな思いで木を扱わせてもらっています。」

それ自体を生かして手を掛けていく

―木の表情がそれぞれ、その木の生きてきた証のようなものになるのですね。
「moon rounds」というのは、どのような想いでつけたのでしょうか?

「月の満ち欠けや、自然のサイクル。そういったものに沿ってものを作りたいという思いを込めました。
自分にとっては、自然と心地よく暮らせることが一番大切なことであって、その営みの中に木を扱うことがある。

自分の作品を生み出したいという欲求を満たすというよりは、食べる寝る、と同じくらいくらいの感覚で、「作る」ということが入っているような気がします。
作るということは丁寧にしていきたい。
自然のリズム、営み、循環の中にあって、何をしても自然の一部である。
そんなことを感じながら、木と向かい合って作っていけたらなと思っています。」

木と向かい合って作っていけたら

森の中にある工房で、自然のリズムを感じながら、木と対話するように生まれてくる家具や器。
虫食いも、傷みも、年輪も全てその木の生きてきた時間。

自然の美しさを引き出されたものたちは、私たちの暮らしの中で、自然とつながる心地よさや豊かさを感じさせてくれます。

自然の美しさを引き出されたものたち

自然の美しさを引き出されたものたち

自然の美しさを引き出されたものたち

自然の美しさを引き出されたものたち

自然の美しさを引き出されたものたち

文・撮影:さとう未知子

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