WISE・WISE tools

作り手をたずねて

お茶を楽しむ会 自然茶

自然のやすらぎと恵みを、暮らしの中に取り入れる。お茶のある暮らし -「自然茶」の魅力

お気に入りの急須で、お茶を煎れてゆっくりと飲む習慣。
来客には、夏には作り置きの冷えたお茶を、
寒い日には温かいお茶を「どうぞ」ともてなす時間。
ペットボトルのお茶は手近に買えて、いつでも冷えたお茶が飲めるようにはなったけれど、煎れたてのお茶を「おいしいな」と飲む習慣は、いつの間にか生活から少しずつ減ってきた気がします。

「お茶は、その味そのものだけではなく、香りや自然を感じて飲むもの」
そう話すのは、WISE・WISE toolsで取り扱う「自然茶」(じねんちゃ)を推薦・監修する、
近藤美知絵さん。近藤さんに煎れていただくお茶は、まず香りを感じ、その後は口中の香味を、そして最後には器に残る移り香を楽しみます。
「かつての日本では、家の近くに自生するお茶を摘んで、自家製のお茶を飲んでいた」と言います。それは、肥料や農薬を使わず、自然の力で根を下ろす生命力豊かなお茶。
それが、「自然茶」です。
今回は、近藤先生が主宰する「お茶を楽しむ会」にお邪魔して、自然茶の魅力・お茶の楽しみ方のお話をうかがいました。

「お茶は、その味そのものだけではなく、香りや自然を感じて飲むもの」

自然の中で飲むお茶は、自然の風を感じて

私たちが向かったのは、近藤先生が「お茶を楽しむ会」を主宰する千葉県柏市にある「山茶庵」。近藤先生は50年以上この会を続け、多くの人に自然茶と、お茶を楽しむことの魅力を伝えてきました。いわゆる「煎茶道」とは少し違い、「道」とつくものではなく、弟子もスタッフとし、自由な精神でお茶を楽しむこと。自然を感じるお茶を楽しむ、近藤先生のそんな思いが「山茶庵」という名前には込められています。

到着した私たちは、ご挨拶も早々に、まずはお外でお茶を?!なかば驚きながら、すぐ近くのお寺へとご案内いただきました。「今は紫陽花の花が綺麗だから、大きくその辺りの空気感を」と言って、そこでお茶を頂くことになりました。

6月の雨上がりの露を受けて美しく緑が輝く、竹林や紫陽花。

6月の雨上がりの露を受けて美しく緑が輝く、竹林や紫陽花。
ここにも鳥が運んだお茶の実。お茶が自生しているのだと教えていただきました。

昔の人は、お茶は家族の健康を願ってつくっていた

近藤先生
「今は、日本茶は蒸す製法が主流になっているけれど昔、自家製のお茶は、家の側に自生するお茶の葉を摘んで、それを鍋釜で炒ったり、天日で干してつくられていました。
昔の人は、お茶は家族の健康を願ってつくっていたのです。
土地の気候風土を含んだ、その土地ならではのお茶ができる。化学肥料も農薬も使わないで、根を深く根ざして自生する在来のお茶は、その土地の味になるんですよ。」

そうして私たちは、この竹林の中でまずはお茶をいっぱい頂きました。

竹林の下で育ったお茶の葉は、竹の露を吸い込んでとても美味しいお茶になる

近藤先生
「なぜ、私はお茶を自然のものにこだわるかというと、「媚びない」からなんです。
これが『おいしいものなんだ!』って押しつけるのではなく、自然をつくりかえずに、
主張し過ぎないのが良いところ。自然茶は、上から肥料を上げない分、自分の力で何百年かけて石や岩にぶつかりながら根を下ろす。その様をいつも想う。自然茶を飲む時は、自然に教えてもらい頭が下がる。そうすると佇まい、器、自然がすっと心に留まり、いつも新鮮な気持ちになるんです。

竹林の下で育ったお茶の葉は、竹の露を吸い込んでとても美味しいお茶になるんですよ。」

そう静かに話す近藤先生の声に耳を傾けながらお茶をいただくと、雨上がりの土の香りや、笹の葉が風にそよぐ音と一緒にお茶の風味を感じられて、とても安らかな心地になりました。

雨上がりの土の香りや、笹の葉が風にそよぐ音と一緒に

昔ながらのお茶を探して見つけたもの

近藤先生がお茶のことを始めるようになったのは、ご自身の病気がきっかけだったと言います。
「私は、26歳の時に心臓手術をしたんです。もう破けそうな心臓で、手術をした機に、生き返ったら何をしようかと思った。
でも、術後は苦しく、全く体が動かなくて、何もすることができなかった。何が私に残っているだろうか?と思ったら単純に、私はお茶を味わう間が好き。幼いころにいつも飲んでいたお茶がまた飲みたいと思ったの。」

近藤先生は鳥取県に生まれ、小さい頃は縁側が近所の人たちの社交場だったと言います。
お客様が来ると、縁側でお茶を出す。その時に飲んでいたお茶がとてもおいしかったのを体が覚えていた。それは、近藤先生のおばあさまが作っていた自家製のお茶でした。
いつの間にか世の中はどんどん変わって、近藤先生が20歳くらいになるころには、お茶は改良種が一般的に飲まれるようになっていました。お茶屋さんに行っても、もうあのお茶の香味を見つけることができなかった。
どうやったら、自分が飲めるお茶と巡り会えるのだろうか?それは、自分の求めるお茶は自分の足で探さないと、と気が付き、歩き始めたと言います。
そしてとうとう、山の奥深くの土地、過疎の村にまで足を踏み入れ、巡り会えた昔ながらのお茶の味は、自然のまんま、自分の根を地中深く根ざしたお茶でした。

「幸せというのは、自分で発見すること。」という、近藤先生。
「こういうことなのか」と発見があると、人は幸せな気持ちになる。

近藤先生から、お茶を飲むことを通して、丁寧に生きること、豊かさとは何かを教えられるような時間でした。
かつて、日本でどこでも見られた、縁側でお茶を飲みながらくつろぐ光景。
お茶を飲む文化は、暮らしの中でゆとりを感じる「間」や、人と人との「間」をもたらしてくれます。

自然の中で力強く育まれたお茶を飲み、自然の恵みを感じて、「自然のありのまま」を楽しむこと。
そうすることで、自分の心と向き合い、日々の暮らしの中でゆとりを持つことを大切にしていけるような気がしました。

「自然のありのまま」を楽しむこと

文・撮影:さとう未知子

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