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作り手をたずねて

陶芸家 天平窯 岡晋吾

用の美を備えた上質な器

天平くん

佐賀県唐津市。飛行機が着陸態勢に入ると、目の前に広がったのは稲刈り後の田園風景。米処九州の近隣の県では焼酎が有名ですが、佐賀県は日本酒がとても美味しい「酒処」でもあります。
トゥールス開業当時からお客様だけではなくスタッフからも大変人気の高い岡晋吾さんは、美味しいお酒・美味しいお料理をこよなく愛し、その美味しさをより引き立たせ、美しく魅せる器を生み出す陶芸家。憧れの工房にお邪魔させていただく機会に恵まれました。

みかん畑の広がる自然豊かな山中に岡さんの工房兼ギャラリーはあります。
広い敷地の中にはたくさんの植物があり、畑にはカリフラワーや白菜等が植えられ、大きな木の根元に置かれたミツバチの巣箱からは、毎年貴重な蜂蜜が収穫できます。

天平窯

天平くん

母屋の入り口では愛犬の天平(てんぺい)君が出迎えてくれます。15歳というおじいちゃん犬ですが、寒空の下でも元気に飛び跳ねていました。

天平窯

玄関の扉をくぐると、土間の左手にギャラリースペース、「立入禁止」の札が掛かった右手は作業場になっています。
自然光が差し込むギャラリーには岡さんと奥様さつきさんの器が並びます。県内外の料亭で使われていた器に心惹かれ、はるばる工房兼ギャラリーを訪れる海外からのお客様もいらっしゃるそうです。
昨年は年間10件程(1ヶ月半に1度のペース!)全国の展示会へ出展され、奥様と合同のものと、個展とが半分くらいの割合。もともと福岡を中心に展示会を行っていたところ、やがて東京へ呼ばれるようになったという天平窯のスケジュールは今年もびっしり埋まっています。

色絵、染付、白磁、安南など作品は多岐に渡り、豪快さと繊細さが混在した魅力ある器ばかり。また、使い手のことを真摯に考える姿勢から生み出される器は、手取りが良く、使いやすい寸法と重さ、なめらかで凛とした質感で、自然な使い心地です。

作業場風景

お弟子さんとろくろ

工房の一角にある、4畳ほどの絵付け部屋は、一歩足を踏み入れると背筋が伸びるような凛とした気配を感じました。
多くのファンを魅了してやまない岡さんの絵付けのルーツとなるのは当時東京で料理研究家をされていた志の島忠(しのじま ちゅう)さん。日本料理研究家の草分けにして大家であると同時に、歌舞伎の舞台絵を描くなど多才な仕事に携わり、その世界で知らない人はいない存在でした。
その頃、製陶所で働いていた岡さんがたまたま絵付けの勉強を課され、年に4回しか会えない師匠から出される無理難題をこなしていくうちに器と料理の関係に魅力を感じるようになっていったそう。
“「下手なのに良い絵」「飽きない絵」を描く師匠から、「綺麗に描くことも絵だけど、そうではない絵も絵なんだ」と教えてもらった。” その後の人生に多くの影響を与えた貴重な経験でした。

お弟子さんとろくろ

共に制作に励む天平窯のお弟子さんは、個人差があるもののだいたい3年~4年で独立されるそうで、「出し惜しみをしない、教えられることはどんどん教えてやらせる」という岡さんの方針によるものとのこと。
ただし、ろくろは「技術」ですが絵付けは「表現」なので、教えないそう。筆の動かし方などを見せ、あとは各々の個性を大切にされているそうです。

また、弟子入りしてすぐは電話対応やお茶出し店番等雑務を中心に務めますが、それも「修行中から多くの人と関わり、人脈を広げておくことで独立したときに役に立つから」だそうで、お弟子さんへの愛情を感じるエピソードです。

天平窯の工房内を案内して頂きました

今までに5000種類を超えるの作品を作られたてきた岡さん。「人から求められるものは残るし、そうでないものは消えていく。作家は、その時の自分を切り取って作品を作るものであり、作陶する上で常に進化していくべきもの。」と捉えています。
今、手に取ることが叶った“現在”の岡さんの器とのご縁に感謝しながら、これから出会えるかもしれない未来の器へ、期待を膨らませずにはいられません。

天平窯をたずねて

天平窯の工房には、岡さんのお人柄や作陶の苦労を感じられる場所がたくさん。岡さんの器が生まれる空間を体感できる、貴重な時間となりました。

ろくろ

01 ろくろ
岡さんのろくろの席。
お隣にはお弟子さんの席が
並びます。


絵付け部屋

02 絵付け部屋
絵付け部屋はたくさんの
釉薬と筆、参考資料の
書籍や写真でいっぱい。


家族の思い出

03 家族の思い出
お子さんが作った
お碗や工作など、
家族の思い出が
たくさん詰まった部屋。


登り窯

04 登り窯
登り窯。番号が書かれた
レンガを順番に並べていくと、
ぴったりとはまり蓋になります。


煙突

05 煙突
窯の煙突。陶器よりも高温で焼く
磁器の場合は30時間薪を
くべ続けます。


岡さんの器で頂くお茶菓子

06 岡さんの器で頂くお茶菓子
岡さんの器で頂く美味しい
お茶菓子。
よく見ると机の目地の部分にも
カラフルなラインが引かれ、
岡さんの遊び心が
見え隠れしています。

多くのファンから愛される、岡さんの作品。

私も大好きな岡さんの工房を訪れました。
これまでの出来事や作品作りへの思い、日々の暮らしのこと等、
笑顔で気さくに話してくださり、さらにファンになりました!

WISE・WISE tools 新井

Potter・Shigo Oka
陶芸家・岡 晋吾さん

1958年 長崎県出身
1981年 佐賀県立窯業試験場デザイン科・絵付科研修。
1982年から10年間 肥前諸窯に勤務。
1993年 西有田町にて独立。
2003年 唐津市浜玉町に移転、天平窯築窯。

優しい笑顔が印象的な岡さん。
取材時間中もみんなの笑い声が絶えず、愛情深いお人柄を感じました。

陶芸家・岡 晋吾さん
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